ジョン(チヂミ)
Project Moonが投稿していた[図書館後日談小説]の和訳です。
※ジョンとは韓国語でチヂミのこと。
パジョンはネギチヂミのこと。
「ねえ、本当にこの道を行くんですか…?」
「合ってるはずなんだけど…」
「あの、もう40分も歩いてるの分かって言ってるんですか?お昼をさっさと食べに行くのにこんな遠くまで行く必要はありましたか?代表がまた何か言いますよ?怒られるのも分かってますよね?」
「あの人が何言ったって別にどうでも良いじゃないか」
「なら一体何を食べに行くのか、教えてくれても良いじゃないですか」
「……ジョン」
「え?なんて言ったんです?」
「ま、まあ、とりあえず行ってみればわかるって!」
「変なもの食べさせるつもりじゃないでしょうね?タチの悪い人だと美味しいものを全部食べさせた後に、それが人間の肉だって言ったんですよ。怖くないですか?」
「言っておくけど、怪しいところでもないし変なところでもないからな。平凡な材料で料理する、それなりに美味しいところだよ」
「そうなんですね。まあそっちからどこか食べに行こうなんて誘ってくるのなんて初めてですし、さぞやすごいところなんでしょうね?」
「だからってあんま期待しすぎるなよ……」
「…居酒屋?」
「ちょっと地味かもしれないけど、いいとこだろ?」
「本当にここなんですか?」
「………」
「こちら盛り合わせ一皿と、パジョン一枚、そして米マッコリ一本です!」
「……誰がデートの場所にこんなところに来るんですか?」
マッコリを噴き出した。
「汚い……」
「……デートだって?!」
「そうじゃなかったんですか?いや考えてみればそうでしょう。そもそもどこに行こうったっていつも私からで、そういう時は必ず事務所の他の同僚たちを呼んでいましたし、依頼に向かう時以外二人っきりでいたことなんてなかった筈ですよ」
「……ここがそんなに気に入らないか?」
「普通、昼ご飯を食べに行こうってったって寒い裏路地を1時間以上も歩いて、安い飲み屋になんか来ないですよ」
「じゃあ……」
「でも、私は好きです。そういうところが好きですよ」
「ああ、このジョンは本当に美味しいですね。特にこのパジョンが……」
「だろ?!皆訝しむけど、実際ここのパジョンを食べてマッコリを飲むと、気に入ってくれるんだよ」
「美味しい食べ物の話をする時は別人になりますね。ところで…他の人ともこうして二人っきりで来た事はあるんですか?」
「……知ってるだろ。あいつだよ」
「ほんと二人は妬いちゃうくらい仲が良いですね」
「お酒が進みますね。昼間から飲む趣味は無いんですけど…」
「ちょっとずつつまむとこりゃまた良いんだよ」
「それで、どういう風の吹き回しで、ここまで私と来たんですか?」
「…お前は勘が良いからわかると思うんだけど」
「直接聞かないと信じられませんよ」
「………」
ビーッ
ビーッ
ビーッ
「…緊急の呼び出しだな」
「…時間がありません。一言だけ言ってください」
「分かったよ!分かったよ!その…」
「好きです…」
「…何だって?」
「あなたは?」
「……ああ、俺もだよ」
お前が数日前に買ったムク工房の最高級品を試しに触って壊してしまったことを言おうと思ってたのに……
そして告白はもっと良い所でしたかったのに……
その言葉を聴いた瞬間、そんなことは全てどうでもよくなった。
「あのパジョン、美味しかったの覚えてますよね?帰りに一つ、買ってきてください」
「ローラン!このままだと焦げちゃうよ!」
「ああ、大変なところになるところだった。さ!ここでまたひっくり返して…もう少し火を通したら…」
「良い匂いじゃない?」
「ローラン印特製パジョンの完成!」
「わ~!ローランは本当に料理が上手だね」
「さて、ここにマッコリまで加えれば完璧だ。ネツァク?」
「はい、種類別に用意してきましたよ」
「賑やかで良い雰囲気ね。皆楽しそうだし」
「ローラン、何を考えていたの?」
「……昔の話さ」
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