――ハン・ヒジュン
「こんにちは、モーゼス先生。お久しぶりですね」
招かざる客が訪ねてきた。セブン南部支部2課直属の便利屋であり、私の元助手。ヒジュン。礼儀の弁えていない目つきはあの頃のままだな。
「私より上の立場で働いてるのだろう、冷やかしにでも来たのか?」
「そんなことはないですよ」
「こんにちは~ヒジュン先輩!」
エズラは気が利かない。あいつが私たちをどのように見ているのか今すぐに気付いてほしい。
「南部から北部まで、何の御用だ?そっちはL社が蒸発してそれどころではないだろうに」
「相変わらず鋭いですね。その問題で来たんです」
「なんだ?私は年が年だ、翼と関わりたくない」
「ねじれ……まだ見えるんですよね?」
「……だから食べていけてるんだ」
「今の私はどう見えているのでしょうね……」
縁起の悪い奴だ。ややこしい質問だけ選んでしているな。
「そうだな…口が縫われてるぞ?それとも縫う予定だからそう見えるのか?」
私にはあの子の顔が見えない。宙に両目がふわふわと浮いている。
「はは、相変わらずですね。お金は要りますか?」
「金が足りないように見えるか?」
「では何故、まだねじれ探偵なんて滑稽な仕事をされているのでしょうか……?」
「………」
「それは未練が残っているからでしょう。まだ、後悔なさっているのでしょう?」
「黙ってください!ヒジュン先輩!」
エズラがハン・ヒジュンの胸ぐらを掴んだ。不敵な笑みは相変わらずだ。
「……話したいようにさせておけ」
「あの日生き残ったのは、私とエズラだけでしたからね。先生には私たちの命に対する責任があるでしょう」
「今、お前の前で舌を噛んで死ねば満足か?」
「そんな簡単に死んではいけません。まだ返して頂くことは多いのですから」
「結論から言え。南部から何故来た」
「派遣で少し来て頂かなくてはなりません。南部にはねじれが原因と推定される頭を抱える事件があったからです。先生の能力が必要です。そして、その馬鹿げたねじれの解決をやめてください。私たちが望むのは発現したねじれ、それ自体だからです。
彼らを戻さないでください。完全にねじれるまで放っておいてください」
「セブンで生体実験でもするつもりなのか?」
「そう思って頂ければ。2か月後、N社のワープ停留所を予約しておいたので、K社の巣にある私たちの協会事務所に来てください」
「セブン協会直属の依頼なのか?」
「はい。都市悪夢級の依頼です。勿論拒否することも出来るでしょう。協会に所属されることにこだわる貴方ではありませんから。
しかし……この仕事の終わりに会えるかもしれません。その方と」
「……チケットを置いて出て行け」
「よろしくお願いします。先生」
不敵な目で笑いながらヒジュンは帰っていった。
「エズラ!ドアの外に塩でも撒いておけ!」
「しかしこの事務所に塩はないですよ?買ってきましょうか?いいえ、買って撒かないとですね!」
「はぁ…いつかこんな日が来ると思っていた…」
あいつの掻き回した事務所。夜まで、私は煙管を吸いながら自分の記憶と戦っている。
「エズラ!都市の地図をちょっと持ってこい」
「はい!でもちゃんとしたものがないな…ちょっと待ってください!私が適当に描いて持ってきます」
変な所で熱心だ。それは私の助手として相応しいということでもある。
「ここです!『写真店』のプログラムで作ったことがあって」
「これが地図か…?」
「大体合ってるじゃないですか!」
私たちはN社の巣に属する14区にいる。K社の巣の11区に行くには、やはりワープしかない。南部の便利屋どもは堅苦しくて関わりたくないが。そうだとしても私は結局行くしかない。
私は取り返しのつかないことをしたから。
「2か月後か…」
「ヒジュン先輩の話ではL社と関連があるとのことでした。でもそれなら、どうしてすぐに12区に行かないんですかね?」
「L社の巣はもうめちゃくちゃだと聞いた。比較的近く、なおかつ安全な場所に私たちを呼んだのだろう。そもそも、L社のワープ停留所は機能停止しているだろう」
「探偵さん、そこに行ったら本当にねじれの解決はしないつもりですか?見殺しにするんですか?」
「私が決めることではない。ねじれの程度によるものだ」
「でももし、引き戻せる程度のねじれなら?」
「……それはその時になって考えよう。まだ時間はある。私たちはまだ、ここでやってきたことを続ければいい」
「はい!次の依頼を受けておきますね!」
【次回】
「うわああ!探偵さん探偵さん!これもねじれですか!?」
「…こんなことありえない」
ねじれに関する情報を更新する時が来た。
「探偵さん、しっかりしてください!一旦退却です!」
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